東京高等裁判所 昭和28年(く)32号 決定
被告人 鈴木儀一
〔抄 録〕
本件抗告理由の要旨は、抗告人は公務執行妨害、傷害被告事件により東京地方裁判所に起訴せられ、在監中の者であるが、同裁判所は昭和二十八年三月二十八日附被告人に対する保釈請求却下決定においてその理由として「証拠湮減の虞がある」旨を揚げているが、被告人は前に保釈せられていたこともあり、その理由は全く根拠なきものであり、正当な決定といい得ないからこれが是正を求めるため本件抗告に及ぶというにある。よつて記録を調査するに、抗告人は昭和二十七年五月二十三日公務執行妨害、傷害被告事件として東京地方裁判所に起訴せられ勾留中のところ、同年十二月二十日弁護人藤井英男の請求により同月二十七日保釈を許され、審理を続行中昭和二十八年三月二十三日同裁判所において被告人を公務執行妨害、傷害罪として懲役十月以上一年六月以下に処する旨の判決言渡があり、即日被告人は右有罪判決に基き収監されたところ、同日被告人の弁護人藤井英男から再保釈の請求をなし、同裁判所はこれに対し検事の意見を聴いた上、同月二十七日右保釈の請求は刑事訴訟法第八十九条第四号の場合に該当すると認められるとの理由でこれを却下する旨の決定をしたことは所論のとおりである。按ずるに、原審裁判所において被告人に対し禁こ以上の刑に処する旨の判決の宣告があつたときは刑事訴訟法第三百四十三条、第三百四十四条の定めるところに従い保釈はその効力を失うとともに、爾後刑事訴訟法第八十九条のいわゆる権利保釈の規定はその適用がなく、裁判所は同条の規定に関係なく自由裁量によつて保釈の許否を決定し得るものといわなければならない。すなわち、右の場合においては同法第八十九条各号に該当する場合であつても場合によりこれを保釈し得るとともに反対に同条各号に該当しない場合、たとえば被告人が罪証を隱滅すると疑うに足りる相当な理由がない場合であつても、事案の性質上保釈を相当ならずと考えるときは保釈請求を許可しないこともあり得るのである。したがつて、被告人に対し禁こ以上の刑に処する旨の判決の宣告があつた後になされた保釈請求却下決定に対してはその不当を主張してこれが取消を求めることはできないものといわなければならない。されば原審が被告人に対し懲役刑に処する旨の判決の宣告をした後になされた本件保釈請求を却下した決定において示した理由が仮りに所論のごとく理由のないものであつたとしても、原審が諸般の事情を考慮しその自由裁量に基き本件保釈請求を相当ならずとしてこれを却下したのであるから、これが却下決定の取消を求める本件抗告は結局その理由がないものといわなければならない。